私大の分析不足?

東京大学や京都大学をはじめ,トップの国立大学については,各予備校などで毎年再現答案を集めたり,勉強会を開いたりして分析や研究が行われている.そして,カラーの違いはあれど,基本それぞれが数学的に「良心的」な出題や採点をしているかと思われる.
しかし,記述式の含まれる数学の試験を受ける大学受験生のうち,半分ほどは私大受験者であると推測され,大多数がトップの国立以外を受験する.

実際,令和 2 年度の文科省の調査「個別学力検査における記述式問題等の出題状況」によれば,数学の試験種数(うち記述ありの試験種数)は、国立 211(211),公立 84(82),私立 1229(約 785),全体 1524(約1078)となっており,私立の記述式(短答式・穴埋め式を除く)を含むテストが全体の 5 割を超えている.

入試問題の例

ただ,特に私立大学では試験種が多数あることもあってか,例えば次のような,明らかな出題ミスでないものの,「良心的」ではない問題もしばしば見受けられる:

$\log_3\sqrt6-\log_3\dis\frac23+\log_3\sqrt2$ を有理数で表すと□である. 〔2022 K大〕

与式はどのような形であれ有理数である.

2次関数 $ax^2+bx+c=0$ について,解の公式を導出せよ. 〔2023 H大〕

2次方程式だ.

座標空間内に5点 $\rm{O,A,B,C,D}$ があり,$\cdots$
$\sim$ 中略 $\sim$
(2) 点 ${\rm D}$ から直線 $\rm{AB}$ に下ろした垂線を $\rm{DE}$ とする.$\Vect{OE}$ を $\vect{a},\vect{b}$ を用いて表すと $\Vect{OE}=□$ である.よって,点 ${\rm E}$ は線分 $\rm{AB}$ を $1:□$ の比に内分する. 〔2024 K大〕

点Eの位置が定かではない.(ただし,これには色々と背景があるようなので,詳しいことは「 “垂線” 」を参照されたい)

数列 $\{a_n\}$ を,

$$ 1,\;3,\;1,\;3,\;9,\;3,\;1,\;3,\;9,\;27,\;9,\;3,\;1,\;3,\;9,\;27,\;81,\;27,\;9,\;\cdots,\;81,\;243,\;\cdots $$

とする.${a_n}$を

$$ 1\:|\:3,\;1,\;3\:|\:9,\;3,\;1,\;3,\;9\:|\:27,\;9,\;3,\;1,\;3,\;9,\;27\:|\:81,\;27,\;9,\;\cdots,\;81\:|\:243,\;\cdots $$

のように,第 $k$ 群の最初の項と最後の項がともに $3^{k-1}$ となるように群に分けて考える.このとき,次の問いに答えよ.
(1) $\cdots\cdots$ 〔2019 R大〕

有限個の例のみを挙げて数列を設定している.(ただし,これにも色々と背景があるようなので,後述または「数列の一般項の推測」を参照されたい)

「出題ミスグレーゾーン」

上記のような問題について,「出題ミスグレーゾーン」と呼ぶことにする.

単なる出題ミスは,いわゆる出題側の「うっかり」によって起こる.うっかり定義域を設定し忘れて面積が無限大になってしまったり,うっかりした国語的なエラーだったり.このような,出題者がちゃんと見直せば防げるような問題を単に「出題ミス」と呼ぶことにする.これらは指摘され,大学もミスを認めること多い.

一方,「出題ミスグレーゾーン」は,出題者が何度見直しても,おそらく修正されないのではないかというような問題のことを指す.ものによっては実害がなさそうなものもあるし,大学に指摘を入れたいわけでもない.ただ,うっかりミスより,もっと根深い問題であるだろうと推測できる.(今のところ,その“根”は出題者の数学力あるいは数学観か,教科書由来のものであるようだ.)

採点中,同じ $2^3=6$ という間違いを見かけても,理解はできているのにその場面だけうっかり間違えてしまった場合と,理解していないが故に間違えてしまった場合があるだろう.それと同じようなことである.

出題のことを考えると,個々の大学において採点も「良心的」に行われていると言い切ることはできない.しかし,膨大な数ある私立大学の多くは再現答案などを用いた緻密な分析がなされていないのが現実である.(だからといって,良心的でない問題に合わせた指導が必要だとは思わないが)

また,「空気を読め」ないと想定された答え方にならないような問いがあっても,少なくとも算数としては問題ないのかもしれない.R大の例のような数列の設定のしかたは教科書でも見受けられることからも,そもそも教科書が完全に現代数学的な立場にいるわけではないことが窺える.このような例は,算数的な考え方を認めているとすればおかしくはない設定であることになる.

いずれにせよ,現実的な難しさもあることは重々承知だが,数多くの受験生が受ける,大多数の大学の入試問題についての研究が活発でないことには留意しておきたい.

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